Loves only you
翌朝、休日のこの日、いつもより遅めの寝覚め。友紀の気持ちは、外の天気とは裏腹に重かった。1つため息をつき、ベッドから離れた友紀は、そのまま下の階のリビングに降りた。


中に入った友紀の目に、朝食が3人分、テーブルの上にキチンとラップが掛けられて、並べられているのが目に入る。もちろん母の優美が3人の子供たちの為に用意してくれたものだ。


「お母さん、わざわざ作って行ってくれたんだ・・・もう私たちも子供じゃないのに・・・。」


友紀は独り言ちる。今日と明日の2日間、両親は旅行に出掛けている。間もなくやって来る結婚記念日の前祝の旅行だそうだ。朝早く出掛けると聞いていたのに、きちんと食事を用意してくれた母の優しさと気遣いに、友紀は頭が下がる。


「それに引き換え、いかに休日とは言え、私たちは揃いも揃って惰眠をむさぼり、いってらっしゃいも言わなかったんだから・・・。我ながらひどい子供たちだ。」


1つため息をついて、キッチンに入った友紀は、今度は汚れ物1つ残っていないシンクが目に入る。


「私はお母さんに見捨てられた途端に路頭に迷う。」


冗談交じりによく口にするくらい、家事が苦手な父が


「これならなんとか私にも出来る。」


と唯一やっているのが、食事の後片付け、洗い物だ。


「もっとも最近じゃ、食器洗浄機なんて有難いものがあるから、結局大したことはしてないということなんだが。」


と苦笑いしているが、


「そんなことありませんよ。お仕事から疲れて帰って来てるのに、毎日欠かさずにしてもらって、心から感謝してます。」


そう言って、母は父の横でニコニコしている。


そこには心から愛し合い、信じ合っている夫婦の姿があった。素敵だな、羨ましいな、自分の親ながら、いや自分の親だからこそ、友紀は心底そう思う。


いつか、お父さんとお母さんのようになりたい。なれるような人と出会いたい。いつしか友紀がそう願い、憧れるようになったのは、恐らく自然のことだ。


だが、その願いがいつか叶い、いや叶ったと思っても、それが幻や錯覚であるかもしれない現実があることを、友紀は昨夜の葉那の話を聞いて思い知った。


(次長・・・。)


滝の顔が浮かんで来る。友紀の胸はギュッと痛んだ。
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