Loves only you
午後、友紀はひとりで家を出た。昼食を食べに行きがてら、少し地元のショッピングモールをブラつこうと思ったからだ。


妹の美紀を誘ったが、これからデートだとあっさり断られ、弟の健吾を誘おうかとも思ったが、さすがにこの齢になって、弟と2人でお出かけもいかがなものかと思い直し、今だに起きて来ないねぼすけはそのまま放置して来た。


今どきの20代女子の6割近くが、休日をおひとり様で過ごすと聞いたことがある。本当かなと思うが、平日頑張って働いた反動で、休日はだらけて過ごしたい気持ちはわかるし、友人たちと連絡を取り合うのも、だんだん億劫になって来る。


それになにより、そんなだらけた自分を吹き飛ばすくらいに会いたくなる存在がいないことが原因なんだろう。少なくとも自分はそうだ。


いつか、両親のようになりたいと憧れながら、その願いが叶ったとしても、それが幻や錯覚であるかもしれない現実があることに、さっきは心を痛めた友紀だったが、


(考えてみれば、そんなことをおセンチに考える以前に、このおひとり様状態を解消することが出来なければ、なにも始まらないんだよね・・・。)


そんな思いが浮かんで来て、思わずため息が出る。こんな心理状況では、ウィンド-ショッピングにも熱は入らず、それでもお腹は空いてきて、目についた店に入って、大好きなパスタを食べて・・・こうして時間だけは過ぎて行く。


(とりあえず、お昼ごはんは食べたし・・・帰ろう。)


このまま帰っても、特にすることもなく、下手をすれば弟の夕飯の心配をしてやらなければならなくなるだけなのはわかっていたが、この賑やかなモールに居ることが虚しくなって来たのだ。


店を出て、家路に着こうとした友紀の目に、見知った顔が映り、思わず足を止めて固まる。


(次長・・・。)


滝だった。なんと目の前の店から、滝が先日見た母娘と一緒に出て来たのだ。あの時は、友紀が一方的に見かけただけだったが、今日は完全な鉢合わせ。友紀だけでなく、滝の方も固まっている。


「杉浦・・・。」


茫然と見つめ合う2人の様子に


「雅也、どうしたの?」


母親の方が尋ねる。


「いや・・・会社の部下なんだ・・・。」


滝がポツンと答えると


「へぇ、奇遇だねぇ。」


その女性は笑うと


「初めまして、いつも『おとうと』がお世話になっております。」


と言って、友紀に頭を下げた。
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