Loves only you
「今回のテナント候補の選定に当たって、リトゥリを推薦したのは私だから。感謝して欲しいな。」


「俺に恩を売る為にか?」


「私はあなたがこっちに帰って来てることも、まして店舗開発室に異動してるなんて、つい最近まで知らなかったのよ。今日会えるってわかってたら、わざわざあの日、待ち伏せなんかしてなかったし。」


固い表情で言う滝の言葉を、明奈は笑って否定したが


「でもあなたの会社を推薦すれば、多少の罪滅ぼしになるかなって気はあったかもしれないな・・・。」


ポツリと続けた言葉に、滝の表情が歪む。2人の視線がカチンと合って、そして訪れる沈黙。それを振り払うように


「わかった、その君の気持ちには素直に感謝するよ。ここに出店出来れば、ウチの会社にはかなりのプラスになるのは、まず間違いないからな。じゃ、俺はこれで。」


と言った滝は、踵を返そうとする。


「待って雅也。少し話せない?」


「帰社しなきゃいけないんだ。それに・・・ビジネスのことならともかく、それ以外のことで、俺たちの間で話すことなんて、今更ないだろう。」


引き止める明奈に冷たい言葉を投げつけ、振り切ろうする滝。だが


「杉浦さん、綺麗な人だね。」


という明奈の言葉に、訝しそうな表情を浮かべる。


「急に何を言い出す・・・。」


「付き合ってるの?あの人と。」


自分の言葉に被せて、明奈は叩き込むように尋ねて来る。その彼女の真剣な表情を思わず、一瞬見つめてしまった滝は


「そんなわけないだろう。」


と言い返すが


「でも雅也は好きだよね、あの子のこと。私には・・・ちゃんとわかる。」


決め付けられて、息を呑む。再び流れる沈黙。見つめ合う、いや睨み合っていると言ってもいいかもしれない時間を破ったのは滝だった。


「バカなことを言わないでくれ。俺は・・・もう2度と(ひと)を愛することはしない、そう決めている。理由は・・・誰よりも君がいちばんよく知っているはずだろう。」


まっすぐ自分を見て、厳しい口調でこう言った滝に明奈は思わず視線を逸らす。


「明奈、俺は君とは今後、ビジネスで必要な場合以外の接触を望んではいない。それは、はっきり言っておく。だから君もそのつもりで行動してくれ。もし、それが出来ないと言うなら、済まないがウチの担当を降りてくれ。君も一流のビジネスマンなら、そのくらいのケジメはつけられるはずだ。じゃ。」


そう言い残すと、滝は明奈に背を向けた。
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