Loves only you
滝がオフィスに戻ると、既に定時は過ぎ、人影はまばらだった。室長の村田はやはり、とうに退社したそうで、予想していたとはいえ、滝は思わず苦笑いになる。


席に着き、パソコンを開いて、部下達からの業務報告のメールに目を通しているうちに、残っていた面々も退社して行き、いつものようにひとり残る形になった滝は、パソコンから目を離し、天井を見上げると、フ-と大きく息を吐いた。


今の部署に来て、2か月余りが経つ。


(全く、いろんなことがあった・・・。)


激流に翻弄されているような日々だった。


(それもだいぶ落ち着いて来たと思っていたのに、まさか、な・・・。)


そんな思いに沈んでいると


「お帰りなさい。」


という声がする。振り返るとコーヒ-が乗ったトレイを手にした友紀が立っている。


「お疲れ様でした。」


友紀は微笑みながらそう言うと、コーヒ-を滝のデスクに置いた。


「ありがとう。」


礼を言って、コーヒ-を手に取りながら


「帰らなかったのか?」


滝は尋ねる。


「お話がありまして。」


「明日じゃダメだったのか?」


「はい・・・他に誰もいないタイミングがいいと思いまして。」


さきほどまでの笑みは消え、固い表情で友紀が言うと、つられたように滝も表情を固くする。少しの沈黙が流れ、そして意を決したように


「差し出がましいことをお聞きして申し訳ありませんが、次長と紀藤明奈さんは、どのようなご関係なんですか?」


滝に真っすぐに視線を向けて、友紀は尋ねた。その真剣な表情に、一瞬たじろいだが


「関係があるように見えたか?」


すぐに平静を取り戻して、滝は答える。


「はい、少なくても初対面ではない。私だけでなく、たぶんあの場にいた誰もがそう感じたはずです。」


「そうか・・・。」


友紀の言葉に、一瞬苦笑いのような表情を浮かべた滝だったが、すぐに真顔に戻ると


「なんでそんなことを聞くんだ?」


と逆に問い返す。


「知りたいからです。」


「なぜ?」


「次長のことを、もっと知りたいからです。」


友紀がそう言い切ると、滝は驚いたように彼女を見たが


「ご迷惑でしょうか?」


と続けた友紀の言葉には


「迷惑だな。」


今度は即答だった、友紀の表情が曇る。
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