Loves only you
「頭を上げて。」


思わず、明奈は口走っていた。そして複雑そうな表情を浮かべ


「どんな理由であれ、あなたに頭を下げてもらうのは、やっぱり心が・・・痛む。」


と言った。


「明奈・・・。」


「とにかく、リトゥリさんの事情はよく分かったわ。宇田川チ-フには、そのことを含めて、1週間以内には返答があると報告しておく。それでいい?」


明奈は表情を改め、滝に告げる。


「それでいい、本当に感謝するよ。」


改めて礼を述べた滝は


「じゃ、今日はこれで失礼する。おいしいコーヒ-だった、ありがとう。」


伝票を持って立ち上がろうとするが


「待って。」


明奈は呼び止めると


「雅也は・・・凄いね。」


と言って、滝を見る。


「雅也が私にどんな感情を抱いてるかなんて、わかりすぎるくらいわかってる。本当は私の顔も見たくないはずなのに、わざわざ連絡して来てくれて、頭まで下げて・・・。」


「俺はビジネス上のことで、君にお願いをしたんだ。こちらが、頭を下げるのは当たり前だろう。」


「今の雅也にとって、杉浦さんって、そこまで大切な人なんだ。」


「変なことを言わないでくれ。杉浦がどうこうなんて、まるで関係ない話だ。」


何を言ってるんだとばかりに滝は答えるが


「そう・・・じゃそういうことにしとこうか、その方が私にとってもいいし。」


そんな滝の表情を見て、明奈はフッと笑う。


「明奈・・・。」


明奈の反応に、戸惑いを隠せない滝だが


「ねぇ、もう少しだけ話せない?」


その言葉に、サッと表情を固くする。そんな彼を明奈は悲しげに見つめる。沈黙が流れる。そして・・・


「明奈、俺と君の間でプライベ-トで話すことなんか、もう何もないはずだ。この前、街で会った時、君は俺に改めて謝罪してくれた。そして俺はこう言ったはずだ。君の謝罪は受け取ったって。だから、もうあのことは全て終わって、過去のものになったんだ。そして俺達の関係も・・・。」


「じゃ、さっきの話は聞かなかったことにする。」


諭すように滝の言葉を、明奈は遮る。驚く滝に


「好きなの、雅也。」


と告げる明奈。


「明奈、いきなり何を言い出す・・・。」


「ずっと好きなの、出会った時から、今までずっと。裏切ったくせにって思ってるよね。でもこの気持ちはウソじゃない。」


「・・・。」


「だから私は・・・雅也を取り戻す為なら、なんでもやる。どんな卑怯なことでも。私は・・・本気だから。」


自分の目を見たまま、そう言い切った明奈に、滝は言葉を失っていた。
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