若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「牧村さん、ムチャクチャ料理上手ですよ。料理ができる男の人って良いですよね~」

 そう言うと、また高橋先生は呆然自失というような表情になる。
 え? そんなに驚くこと?

「響子先生、もしかして、料理ができる人とか、好きでしたか?」

「はい。だって、私、自分で料理とかしないですし。作ってもらえるなら、ムチャクチャありがたいですよね?」

 高橋先生だって、看護師さんからお弁当もらったって言ってたじゃない。料理が好きで作って食べさせてくれる人を嫌う人なんていないんじゃないかな?
 
 ああ、高橋先生は牧村さんが男性ってところが引っかかってるのか。
 そっか。そうだよね。これが普通の反応だよね。
 元カレの、料理も後片付けも女がやれ的な態度を思い出す。あーやだやだ。男とか女とか関係ないじゃん。
 でも、やっぱ、牧村さんが普通じゃないんだろうなと思い直す。

 ……普通じゃないのも道理だった。牧村さんは結婚詐欺師だったっけ。
 なんで私、お付き合いするのOKしちゃったんだ!? いや、手料理だ。手料理に胃袋を捕まれてしまったんだ。仕方ないじゃないか。
 それに、取りあえずのお試しだし。無理だと思ったら、ごめんなさいすれば良い。

 だけど、どうしても牧村さんの根っこが変な人とは思えなかった。
 だから、きっと、本当は何か事情があるんだろうな、と思えて仕方なかった。

「牧村先生、ちょっと良いですか?」

「はい。どうしました?」

 その後、看護師さんがやってきて高橋先生との会話は終了。
 休み明けで外来患者も多い上に、昨日の落ち着きようが嘘のように急を要する患者が何人も運び込まれてきた。
 緊急手術まで入り、気がつくと夜勤の時間に突入していた。


   ◇   ◇   ◇

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