若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 朝の引き継ぎ前、出勤した高橋先生がコンビニの袋片手に近寄って来た。

「おはようございます」

「おはようございます。昨日はどうでした?」

「まあ、いつも通りですかね。高橋先生の担当患者さんは皆さん変わりなしです」

「それは良かった」

 それから、高橋先生は私に白いビニール袋を差し出した。

「お疲れ様です。朝食にどうぞ」

「え?」

「おにぎりとカップスープです。すみません。コンビニのですが」

「いいんですか?」

 そんなものを差し入れてもらうのは初めてで驚いて高橋先生の顔を見上げる。

「はい。こんなもので申し訳ないんですが」

「いえいえ。お腹空いてたんで嬉しいです。帰る前にここで食べてきますね」

 早速覗き込むと、私がよく食べてる昆布としぐれのおにぎり二つ。それから、卵とわかめのスープ。
 引き継ぎが終わった後、自席でコソッと食べていると、診察室移動前の高橋先生がまたやって来て、今度は小袋に入ったチョコ菓子をバラバラッと五個デスクに置いた。

「こっちは非常食です。引き出しにでも入れとておいてください」

「あ、はい。ごちそうさまです!」

 満面の笑顔でお礼を言うと、高橋先生は嬉しそうに笑い返してくれた。

「響子先生は食べ物だったんですね」

「は?」

「いえ、私は料理はできませんが、こんなもので良ければまた持ってきますね」

「あ、いや、大丈夫ですよ?」

 そう言ったのに、高橋先生はポンポンと私の頭を撫でるように軽く叩くと、そのまま診察に行ってしまった。
 そう言えば、入局してすぐの頃、ミスをしでかしてど叱られた時もこんな風に慰めてもらったっけと思い出す。今でこそ同僚として働いているけど、キャリアは向こうのが上だし先輩づらしたり偉そうにしたりは決してしないのに、面倒見は良い優しい人だ。
 自分もああ言う医者になりたいな。ふとそんなことを思った。

 もらったおにぎりとあったかいカップスープを飲み終わると眠くなってきた。
 大きなあくびをしながら、鞄を肩にかける。
 誰もいなくなった医局を出て、

「失礼します」

 とナースステーションに一声かけて病棟を後にする。

「お疲れ様でした。お気をつけて」

 となじみの看護師さんが顔を出してくれた。
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