若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 牧村さんは相変わらず手際よく食材の処理をしている。タマネギを剥いて、ネギを洗って、リズムよく包丁で切る。あ、鶏肉だ。今日の夕飯はなんだろう?
 ホント、器用だなと思う。
 よく見ると動きにまったく無駄がない。きっと、この人、頭が良いのだろうなと思った。
 ぼんやり観察していると、不意にこちらを向いた牧村さんと目が合った。

「お待たせしてすみません。お腹空きました?」

 聞かれて、思わずお腹に手を当てる。
 昼ご飯も食べずに爆睡してしまったけど、今日は朝食は食べてきたから、まだ大丈夫だ。
 ああでも、昨日の夕飯は栄養ドリンク一本だったのを思い出す。昨日の昼は何か食べたんだっけ? なんだかんだでエネルギー不足なのに気がつき、自分の不摂生が少し嫌になる。
 そして、どうも、空腹状態がデフォルトになっているようで、これくらいならお腹が空いたと感じないらしい。……不健康だ。
 お腹に手を当てたまま考え込んでしまったようで、牧村さんが、

「急いで作るので、これでも食べて待っててください」

 と根菜の煮物を持ってきてくれた。

「え、もう作ったんですか!?」

 驚いてそう言うと、

「まさか」

 と笑われた。

「さすがに、この時間から煮物までは厳しいと思って、昨日の夜煮込んでおきました」

 はい、とお箸を渡されて、更にお茶もいれてきてくれると言う。
 至れり尽くせりとはこのことだ。

「あ、美味しい」

 レンコンを口に入れて、つぶやくと、じっとこっちを見ていたらしい牧村さんは嬉しそうに

「ありがとうございます」

 と言った。


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