若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 それから約三十分後に出てきたのは親子丼とお味噌汁。

「手抜きですみません」

「とんでもないです!」

 いや、ホント、手抜きって言葉の使い方を間違えてると思う。
 店の料理かと思うような立派な半熟卵にチラリと見え隠れするプリプリの鶏肉。
 今日も視覚からも嗅覚からも主張される。食べなくても分かる。絶対に美味しいやつだ、これ。

「どうぞ、召し上がれ」

「いただきます!」

 添えられた木製のスプーンも親子丼の入った木製の丼も家にないものなのは、もう気にもしない。きっと、牧村さんが家から持ってきたものだろうと普通に思う。
 スプーンですくった親子丼をまずは一口。……マジで美味しい。
 タマネギ、甘い。鶏肉、期待を裏切らないかみ応え。それからとろとろの半熟卵。何より、味付け! 甘辛い上品な味がたまらない。味噌汁は豆腐とえのきとネギ。こちらも一口。安定の美味しさだ。

「美味しいです!」

 そう言うと、

「それは良かった」

 と、また満面の笑顔の牧村さん。
 見ると、牧村さんの前にも私と同じ食器に入った親子丼とお味噌汁、それから私は先に食べてしまった煮物の小鉢。

「いただきます」

 と牧村さんも手を合わせる。その仕草がまた綺麗で思わず見とれる。

「どうしました?」

「あ、いえ、何でもないです!」

 慌てて食事に戻る。
 そのまま美味しい美味しいと思いながら、あっという間に食べ終わってしまった。早食いが身に染みついていて、どうにもゆっくり食べられない。ふと隣を見ると、牧村さんはしっかり味わって食べていた。
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