若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「ご馳走様でした。すごく美味しかったです」

「お粗末様でした」

「……絶対にお粗末じゃないと思います」

 そう言うと、牧村さんはクスクス笑う。

「うーん。定型文での受け答えだし、困りましたね」

「まあ、そうなんですけど」

「僕もなかなか美味しくできたと思ってますよ?」

「ですよね?」

 お互いに顔を見合わせてクスクス笑う。
 いつの間にかニュース番組が終わってバラエティらしきものが流れていた。

「牧村さんはテレビとか見るんですか?」

「ニュース番組とか特集くらいですかね? 新聞は読みますがテレビは見ない方です。響子さんは?」

「私もほぼ見ないです。すみません。新聞もろくに読まないです」

「でも、論文や専門誌は読む?」

「それは、もちろんです」

 そう言うと、牧村さんは笑う。

「勉強熱心ですね」

 その言葉にカチンと来て、

「……勉強しない医者に診て欲しいですか?」

 とつい言い返してしまうと、

「ただ、響子さんは素敵なお医者さんだなと思っただけですよ?」

 と微笑みかけられてしまった。
 そう言えば、お父さんが医者だって言ってたっけ……。
 まったく他意のないであろう牧村さんの言葉に申し訳ないと思うと同時に、なんで、『勉強熱心』にカチンと来たのかを思い出した。



「若園って美人だけど頭良すぎて無理」

「ちょっと頭が良いくらいならともかく、あいつ、普通じゃないもんな」

「せっかく綺麗な顔してるんだから、もっと可愛げがあると良いのにな」

「自分より勉強できるとか、それくらいは気にならないけどさ、あそこまでになると、劣等感刺激されてヤバイよな?」

「涼しい顔してるけど、実は家でムチャクチャ勉強してたりして」

「いや、何もしないであの成績だったらヤバイだろ」

 高校二年生の時かな。廊下の曲がり角で偶然聞いてしまった男子の会話。
 ムッとしただけで、だからどうというものでもなかったけど、お勉強に関しては昔からこんな感じで色々言われて、あまり良い想い出がない。相手に悪気はないとしても、仮に向こうが勝手に劣等感を刺激されて言っているだけだとしても、良い気分はしないのだ。



< 109 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop