若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 チンと甲高い音がしてレンチン終了。

「器、お借りしますね」

「そのままでも良いですよ」

 どうせろくな器なんてない。
 だけど、牧村さんは笑いながら、

「でも熱いので、一応移します。お腹空いてるんですよね? 食べやすい方が良いでしょう」

「……確かに」

 そう答えると、また朗らかに笑われた。
 ベッドの上で壁にもたれて待っていると、学生時代に誰かがくれたラーメン丼にお粥が盛り付けられてきた。違和感が半端ない。

「すみません。なんか変な感じですがカレー皿だとこぼしやすいかと思って」

 牧村さんもそう思ったらしいけど、気にすることはない。

「いえ、十分です」

 スプーンを渡され、フーフー息を吹きかけて冷ましてから口に入れる。
 味がしない。
 でも美味しかった。
 気持ちだけは美味しかった。エネルギーが身体に染み渡るようだった。
 美味しかろうが不味かろうが、食べなきゃ回復しないんだからとにかく食べる。黙々と食べるうちに身体に少しずつ力が戻ってくる。
 こんなに早く消化はしないはずだから、これは気持ちの問題だろう。でも、気持ちで元気になれるならありがたい話だ。

「お茶も飲んでください」

 途中で器を取られてお茶の入ったコップを渡される。

「すみません」

 ゴクゴク飲み干すと、丼を返してくれる。
 こんな風に世話を焼かれるのは何年ぶりだろう? 親と住んでいたのは高校生までだから、少なくとも十二年以上前の話だ。滅多に風邪も引かない健康優良児だったから、もしかしたら二十年以上前かも知れない。
 結局、私は出されたお粥を全て食べた。食べてから、

「そう言えば、牧村さん、夕飯は?」

 と思い出して聞いた。

「すみません。若園先生が寝ている間におにぎり食べさせてもらっちゃいました」

「それなら良かったです」

 そう答える私に牧村さんは笑顔を見せ、それから鎮痛解熱剤を手渡してくれた。

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