若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
18.
「社長、おはようございます」

「おはよう」

「良い週末をお過ごしになられましたか?」

「そうだね」

 うん。良い週末だった。本当に。
 これまでだってそれなりに楽しい人生を送ってきたと思うけど、この三日間は別格だった。
 ようやく出会えた運命の人。響子さんの名前を思い出しただけで頬が緩む。
 艶のあるサラサラの長い髪、少し憂いを帯びた眼差し、綺麗に整った顔は色白で、抱き締めた感触は暖かくて柔らかくて。
 僕の名を呼ぶ声は少し高くて、耳障りがいい。とても丁寧な話ぶりがまた可愛くて。忙しそうで色々面倒くさいって思ってそうなのに部屋は清潔だし片付いているし。そして箸の上げ下ろしがとても綺麗だった。

「……楽しそうで良かったです」

「ありがとう」

 世界に感謝したいくらいには幸せだ。今ここで感謝の踊りを踊れと神託が下ったら、即行踊り出すくらいには幸せだ。
 どうやら、僕は相当緩んだ顔をしていたようで、秘書は微笑ましいを通り越して生暖かい目を向けつつ、

「早速ですが、本日のご予定は……」

 と話を始めた。
 既に自分でも確認していた内容だから、パソコンのモニターを見ながら片耳で聞き流す。

「と言うわけで、今日は会議が詰まっていますし、昼食はうちで支援しているNPO法人との懇親会で、夜はHTシステムズの社長、役員との会食でほぼ空き時間はありません」

「了解」

 朝出発したら、移動時間以外は休憩もなく、オフィスに戻ることもできなさそうだ。今日は慌ただしい一日になる。

「後、来週の出張ですが」

「あー、出張」

 すっかり忘れてた。来週は海外出張だ。行き先はベトナム、タイで一週間。今回は子会社の工場視察が中心だから頭を使ったり胃が痛い思いをするような出張ではない。
 だけど、一週間も日本を離れるってことは、つまりその間は響子さんに会えないということだ。昨日見かけた同僚の医者(多分)。あんなのが側にいるのなら、一時も目を離せないのに。
 今週中になんとしても距離を詰めておかなくては……。
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