若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「社長……聞いてます?」
「悪い」
何か言ってたか? ごめん。聞いてなかった。
苦笑いをしている秘書に手を差し出す。
「移動中に自分で確認しておくから、それちょうだい」
「ではお願いします。まだ変更が入るかも知れませんが」
「分かった。何か変わったら教えて」
受け取った書類をザックリと確認しながら、秘書に声をかける。
「悪いけど、出かける十分前に声かけてくれる?」
「承知しました」
「後、コーヒーお願いしてもいい?」
「了解です。すぐお持ちしますね」
「よろしく」
◇ ◇ ◇
響子さんとの時間を作るには、仕事を減らさなくてはいけない。特に、夜。今日は元々会えない日だったから会食でも問題ないけど、これからはできるだけ夜は空けておきたい。
うん。響子さんのシフトを教えてもらわなくては。さすがに夜は毎日NGですとかは無理だから、最大限、夜の予定は響子さんと会えない日に入れてもらおう。夕方の予定も減らしておきたい。十七時までに収まっていると動きやすい。
明日は十八時まで会議を入れられていた。終わってすぐに帰っても、買い物をしたら響子さんちには十九時だ。何を作るか考えておかなくては。響子さんを待たせないためには事前準備と計画が大切だ。
「社長、嬉しそうですね」
本日最後の予定、会食のために料亭に向かう車の中、これからのことに思いを馳せていると、真鍋さんが声をかけてきた。
「そう見える?」
「はい。もうね、社長の周りだけ花が飛んでんそうなくらい空気が違いますよ」
バックミラー越しにこちらを見て、真鍋さんは楽しそうに笑う。