若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「私も先程事情をお聞きしましたよ。急なトラブルで常務が来られなくなったそうで」
その言葉を受けて服部社長が声を上げる。
「断りもなく連れてきてしまい申し訳ない。これは私の姪で服部ゆかりと言います。折悪く工場でトラブルがあり常務が現地に飛ぶことになったので、代わりにこの子を連れてきてしまった次第です。ゆかりは以前から牧村さんに憧れていたそうで、前々から牧村さんにお会いする時は自分もと言っていたので、急遽白羽の矢を立てさせて頂きました」
急遽と言いながら振袖か。今が昼間ならまるっきりお見合いだろう。最初から準備していたとしか思えない。
うっかり小さくため息を吐くと、本部長が取りなしに入る。
「まあ、良いではないですか。こんな綺麗なお嬢さんが同席してくださるなら、場も華やぎますし」
「ほら、ゆかり、ご挨拶をしなさい」
「はじめまして。服部ゆかりと申します」
促され立ち上がった女性の絢爛豪華な朱を基調とした着物の長い袖が衣擦れの音を立てる。高く結い上げた髪に挿された派手な髪飾りがゆらゆらと揺れた。
……化粧、濃いな。着物だから仕方ないのか? 真っ赤な唇が気持ち悪い。
「牧村です」
短く応えて軽く会釈をする。怒りは隠すけど戸惑いは隠さない。
取引先と言っても、HTシステムズはうちより大分小さな会社だ。小さいけど技術力は高く国際的にも評価されている。
この会社と良い関係を結ぼうと奮闘する営業部のことを思うと無碍にはできなかった。本部長が本当はどう思っているか分かりはしないが、この機会に服部社長に貸しを作っておこうくらいは考えているかもしれない。
喫緊の課題は、この憂鬱な時間をいかにやり過ごすかだな……。
その言葉を受けて服部社長が声を上げる。
「断りもなく連れてきてしまい申し訳ない。これは私の姪で服部ゆかりと言います。折悪く工場でトラブルがあり常務が現地に飛ぶことになったので、代わりにこの子を連れてきてしまった次第です。ゆかりは以前から牧村さんに憧れていたそうで、前々から牧村さんにお会いする時は自分もと言っていたので、急遽白羽の矢を立てさせて頂きました」
急遽と言いながら振袖か。今が昼間ならまるっきりお見合いだろう。最初から準備していたとしか思えない。
うっかり小さくため息を吐くと、本部長が取りなしに入る。
「まあ、良いではないですか。こんな綺麗なお嬢さんが同席してくださるなら、場も華やぎますし」
「ほら、ゆかり、ご挨拶をしなさい」
「はじめまして。服部ゆかりと申します」
促され立ち上がった女性の絢爛豪華な朱を基調とした着物の長い袖が衣擦れの音を立てる。高く結い上げた髪に挿された派手な髪飾りがゆらゆらと揺れた。
……化粧、濃いな。着物だから仕方ないのか? 真っ赤な唇が気持ち悪い。
「牧村です」
短く応えて軽く会釈をする。怒りは隠すけど戸惑いは隠さない。
取引先と言っても、HTシステムズはうちより大分小さな会社だ。小さいけど技術力は高く国際的にも評価されている。
この会社と良い関係を結ぼうと奮闘する営業部のことを思うと無碍にはできなかった。本部長が本当はどう思っているか分かりはしないが、この機会に服部社長に貸しを作っておこうくらいは考えているかもしれない。
喫緊の課題は、この憂鬱な時間をいかにやり過ごすかだな……。