若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「牧村さん、ご趣味は?」
「週末はどのようにお過ごしですか?」
「お庭の梅が綺麗に咲いているのですって。後で見に行きませんこと?」
「こちらのお料理、とても美味しいわ。牧村さんはどんなものがお好きなのかしら?」
耳障りな甲高い声で繰り広げられるどうでも良い話。
挙げ句の果てには、
「嫌だわ。お仕事の話なんて、お食事の席ではやめましょうよ」
と来たものだ。
もちろん、こんな席でガッツリ取引の話などはしない。ただ、お互いに腹の探り合いはするし、今後の取引の流れや方向性なんかはこういう場で見えてくる。
場違いなのも見当はずれなのも君の方だ、と言いたいが、言えない。服部社長が何も言わずに笑顔でいるから、こちらも苦笑いで対応するしかないではないか。本部長すら、
「ゆかりさんはゴルフをされるんですか。それは今度ご一緒したいな。ねえ、社長?」
とか、そっちに話題を振るからたまらない。
非常に気まずく無駄な時間を約二時間過ごした後、ようやくお開きとなった。
玄関までの間に通った渡り廊下の小さな段差で、
「あっ!」
と小さな声を上げ服部社長の姪がつまづいた……ふりをした。ああ、これはわざとだなと思ったけど、隣にいたら手を貸さない訳にはいかない。
仕方なく手を出して抱きとめるとギュッと抱きつかれた。やめてくれ。気持ち悪い。
「ごめんなさい!」
そう言って、あざとく僕を見上げる女。
「いえ、大丈夫ですか?」
「ええ、幹人さんが抱きとめて下さったから」
さっきまで名字だったのに、いつの間にやら名前呼び。
そして、女はいかにも慌てた様子を取り繕って、
「大変! 幹人さんのスーツを汚してしまったわ」
と僕のスーツの上衣に手を伸ばす。見ると胸元にべったりと赤い口紅が付いていた。……勘弁してくれ。
「週末はどのようにお過ごしですか?」
「お庭の梅が綺麗に咲いているのですって。後で見に行きませんこと?」
「こちらのお料理、とても美味しいわ。牧村さんはどんなものがお好きなのかしら?」
耳障りな甲高い声で繰り広げられるどうでも良い話。
挙げ句の果てには、
「嫌だわ。お仕事の話なんて、お食事の席ではやめましょうよ」
と来たものだ。
もちろん、こんな席でガッツリ取引の話などはしない。ただ、お互いに腹の探り合いはするし、今後の取引の流れや方向性なんかはこういう場で見えてくる。
場違いなのも見当はずれなのも君の方だ、と言いたいが、言えない。服部社長が何も言わずに笑顔でいるから、こちらも苦笑いで対応するしかないではないか。本部長すら、
「ゆかりさんはゴルフをされるんですか。それは今度ご一緒したいな。ねえ、社長?」
とか、そっちに話題を振るからたまらない。
非常に気まずく無駄な時間を約二時間過ごした後、ようやくお開きとなった。
玄関までの間に通った渡り廊下の小さな段差で、
「あっ!」
と小さな声を上げ服部社長の姪がつまづいた……ふりをした。ああ、これはわざとだなと思ったけど、隣にいたら手を貸さない訳にはいかない。
仕方なく手を出して抱きとめるとギュッと抱きつかれた。やめてくれ。気持ち悪い。
「ごめんなさい!」
そう言って、あざとく僕を見上げる女。
「いえ、大丈夫ですか?」
「ええ、幹人さんが抱きとめて下さったから」
さっきまで名字だったのに、いつの間にやら名前呼び。
そして、女はいかにも慌てた様子を取り繕って、
「大変! 幹人さんのスーツを汚してしまったわ」
と僕のスーツの上衣に手を伸ばす。見ると胸元にべったりと赤い口紅が付いていた。……勘弁してくれ。