若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 どうしたものか。
 両親にも話していないけど、成り行きで真鍋さんには話してしまっている。
 やっぱり、昨日はまだ我慢するべきだったか? ……いや、それでは僕の心が持たない。
 うん。言っておこう。さすがに秘書に隠し続けるのはやめた方が良い。彼には知っておいてもらった方が良い。

「……そう。将来を誓い合いたくて全力でアプローチ中の彼女がいてね」

「え?」

 秘書の動作が止まる。そんなに意外?

「そんなお方が……いつの間に?」

「うん。先週の金曜日」

「は? ……え? 四日前の金曜日、ですか?」

 多分、彼は僕の金曜日のスケジュールを思い起こしている。

「取引先の人とかじゃないよ。偶然出会った女の人」

 響子さんとの出会いを思い浮かべると自然と笑顔があふれ出す。
 僕はまたしても緩みきった笑顔になっていたらしい。

「……そう言えば、人生で一番幸せ、とおっしゃってましたっけ」

 ああ、そんなことを言った気もする。

「どんなお方か伺っても宜しいですか?」

「んー。まだダメ」

「まだダメ、ですか」

「アプローチ中なんだ。変に情報が漏れて、彼女にプレッシャーをかけたくないから」

「えーっと、そのお方は社長とお付き合いしたくないと?」

 秘書は怪訝そうな顔をする。

「一応、OKもらったんだけど、まだ将来を誓い合うまでは行けてないから」

「……欲がない方なんですね」

「そうだね。究極に自立した人かな。僕の肩書きなんて邪魔くさいだけかも」

 そう言って笑うと、秘書はそんな人がいるのかとでも言いたげに眉をしかめた。


   ◇   ◇   ◇


< 124 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop