若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「ご馳走様でした。すごく美味しかったです」

 結構な勢いで食べ終わると、響子さんは手を合わせた。

「お粗末様でした」

 と言うと、

「……絶対にお粗末じゃないと思います」

 と、響子さんが言うものだから思わず笑った。

「うーん。定型文での受け答えだし、困りましたね」

「まあ、そうなんですけど」

「僕もなかなか美味しくできたと思ってますよ?」

「ですよね?」

 お互いに顔を見合わせてクスクス笑い合う。
 料理を始めた頃にはニュース番組だったものが、気がつくとバラエティに変わっていた。

「牧村さんはテレビとか見るんですか?」

 響子さんに聞かれて、思わず、僕に少しは興味を持ってくれたのかなと嬉しくなる。
 でも、そんな顔を見せるのもどうかと思い、真顔で返事をする。

「ニュース番組とか特集くらいですかね? 新聞は読みますがテレビは見ない方です。響子さんは?」

「私もほぼ見ないです。すみません。新聞もろくに読まないです」

 多分、そんな時間あったら寝てるよね、忙しそうだし。若い頃の父もそうだったなと思い、

「でも、論文や専門誌は読む?」

 と言ってみると、

「それは、もちろんです」

 と真顔で帰ってきた。
 だよね。響子さん、すごく真面目そうだもん。

「勉強熱心ですね」

 悪気はなかったのだけど、響子さんはその言葉に引っかかったらしい。

「……勉強しない医者に診て欲しいですか?」

 声が固い。さっきまで和やかな雰囲気だったのに。ごめんね。気分を害しちゃったかな。
 どうしようかな? うん。流させてもらおう。他意はないのだから。

「ただ、響子さんは素敵なお医者さんだなと思っただけですよ?」

 と微笑みかけると、響子さんは毒気を抜かれみたいにふっと肩の力を抜いた。
 そのまま何やら考え込んでいるようで動作が止まる。こうしていると整った綺麗な顔をしているせいか、少々キツく見える。仕事中はどっちの顔をしているのだろう? 患者さんには優しい笑顔を見せるのか、それとも少し近寄りがたい感じなのか?

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