若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「響子さん?」

「……あ、すみません」

 あまりに長い時間考え込んでいたので、声をかけてみると、響子さんは目を何度か瞬かせた。
 そのまま、眉間をぐりぐり押している。疲れが取れていないのかな?
 思わず、その形の良い頭に手を伸ばす。髪の毛サラサラ……そう思いながら、なでていると、

「牧村さんは今日、仕事忙しかったですか?」

 と、ようやくいつもの表情に戻った響子さんに聞かれた。
 何気ない言葉だけど心がほっこり温まる。好きな人が自分に興味を持ってくれるのって、本当に嬉しい。

「今日、ですか? そうですねー、いつも通りです。会議を三本、来客が二組、後は書類を読んだり決裁したり」

 ……だったよな?
 外出がなかった分、今日は楽だった。

「……忙しそうですね」

「そうでもないですよ?」

 ただ、持ち込まれる案件が色々多方面に渡り過ぎて、気を抜くと自分が何をやっているのか分からなくなってくる。

「響子さん、今日は……」

「寝てました」

 即答に思わず笑う。ホント、可愛い。
 当然だけど帰宅して寝る前までは、色々やっていたのだろう。病院で夜中にしっかり眠れていたのなら、昼間にこんな寝ていないだろうし。
 数日おきに昼夜逆転の生活。休みの日も何かあったら呼び出しが来る。本当に大変だろうなと思う。

「そうだ。明日のご予定は?」

「明日は普通に日勤予定です」

「また、来ても良いですか?」

 明日は国内出張だ。けど、十五時には現地を出られるのでオフィスには戻らず、直帰して響子さんのところに来たい。

「はい。……と言うか、こんなに毎日、大丈夫ですか?」

「それは、もちろん」

 明日の約束も取り付けられ、満面の笑みでそう答えると、響子さんは、

「なら良いんですが」

 と小首を傾げた。
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