若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あの……」

「はい」

「なんで、そんなによくしてくれるんですか?」

「え?」

 それまで落ち着いた様子だった牧村さんは急に慌てた様子になった。けど、それも一瞬のことで、スウッと真顔になると同時に私の目をじっと見つめてニコリと満面の笑みを浮かべた。

「一目惚れしました」

「……は?」

 なんですと?

「若園先生に一目惚れしてしまったんです」

 ヒトメボレ? って、果物だっけ?

「すみません。出会ったばかりなのに厚かましくて。」

「あ……いえ」

 むしろ厚かましく遠慮なく面倒かけてるのは私の方な気がする。

「あ! 改めまして、牧村幹人、独身です。不倫とか浮気とかじゃないので安心してください。後、バツイチとかでもないです」

「……はあ」

「年は三十五歳。もうすぐ三十六歳です。牧村商事って会社の社長をやってます」

「……そういえば、朝も名刺頂きましたっけね」

 こちらはN大学病院の脳外科医、二十九歳。専門医を取ったばかりの駆け出しだ。
 って、私の自己紹介いる?
 ああでも、こんなに世話になっておいて挨拶もしないのは人としてなしか。

「若園響子と言います。N大学病院で脳外科医として働いてます」

「やっぱりお医者さんでしたか」

 ……やっぱり? って、私そんな医者っぽい顔してたっけ?

「すみません。いえ、うちの父親も医者なんですよ。先生と同じような匂いがするんで」

「……ああ、匂い」

 思わず、自分の腕をクンクン嗅いでみるが自分じゃ分からなかった。そんな私を見て、牧村さんはニコニコ笑っていた。

「後すみません。車に名刺入れが落ちてまして、中を改めさせて頂きました。そちらに若園先生のお名前があり表札も同じ名前でしたので、きっとご本人だろうなと」


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