若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 話が一段落したところで食器を片付けようとすると、響子さんも立ち上がり、

「お皿くらい洗います」

 と言う。

「大丈夫ですよ」

 反射的に答えてから、思い直す。

「……でも、もし良かったら洗ったものを拭いてもらえますか?」

 気なんて遣わなくても良いと思う。だけど、せっかくの申し出だし、一緒に後片付けをするとか最高に楽しそうだ。
 笑いかけると、響子さんもにこっと笑って頷いてくれた。

 二人分の食器を洗い、響子さんに手渡していく。それを響子さんが布巾で拭いて積んでいく。
 二人分の食器! 新婚さん? ああ、早く本当にそうなりたな。

「響子さん、これ、ここに置いていっても大丈夫ですか?」

 今日の食器は普段家で使っているものではない。もらい物が積み上がっている蔵に行って取ってきた。ここに置いていっても支障はない。いや、むしろ置かせて欲しい。

「良いですよ。どっか入りそうなところあったかな?」

「引き出しを少し整理すれば入ると思いますので、じゃあ、入れておきますね」

 この家には必要最低限のものしかない。キッチンも例外ではなく、小さな引き出しに入っていたのはお玉、しゃもじ、菜箸くらい。それを端に寄せれば、二人分の食器くらいは難なく入る。

「お願いします」

 そう言いながら、響子さんが炊飯器の蓋を開けて中身を確認した。それから、味噌汁の入った鍋の蓋を開けて覗き込んだまま手が止まる。
 その表情は決して明るいものではなく、やけに寂しそうで……。
 気づいた瞬間、浮かれた気持ちが一気に引き締まる。

「響子さん?」

 何が気になっている?
 ごめん、響子さん、何か嫌だよね、今。
 どこに問題がある?
 味じゃない。さっきは本当に美味しそうに食べていた。
 多分、面倒くさいから嫌とか、そんなんでもない。この表情はそんなお気楽なものではない。
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