若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
20.
「あれ、響子、おはようー」

 朝の病院最寄り駅。
 駅舎を出たところで声をかけられて振り返ると、同期の医師、仁科弥生(にしなやよい)がいた。

「おはよう。珍しいね。今日は電車?」

「そうそう。夜、飲みに行く予定でさ」

「なるほど」

 弥生の専門は眼科。うちと比べたら格段に余裕がある。基本、当直もないし呼び出しもない。と言うわけで、弥生は勤務後の飲み会などにも積極的に参加しているらしい。
 時間が合わず、私が弥生と食事に行くのは年に数回程度。それでも同期の中では一番仲が良くて、会えば楽しく話す友だちだ。

「今日は日勤?」

「うん」

「良かったら、響子も来ない? 合コン」

「行かない」

「たまにはそう言うお付き合いも大事よ、響子さん。私たち、もう若くないんだから」

 からかい口調で弥生に小突かれるけど、そう言うのは興味ないから。
 ……いや、興味なかった? 今だって彼氏作るとか結婚するとか、そう言うのは面倒くさいし、いいやって思ってる。でも気がつくと、お試し期間中とはいえ、そういう相手ができているし。
 おかしいな。どうしてこうなった?

「今日の相手、有望よー。外資系コンサルでね」

 弥生は楽しそうに話してくれるけど、その人たちと生活時間が合う気がしない。百歩譲って時間はどうにか合わせられたとして話が合う気がしない。社交的な弥生は大丈夫だろうけど、私はまず無理だ。

「一人くらいなら増えても大丈夫だと思うけど、本当に来ない?」

「うん。行かない。……てか、今日、予定あるし」

「え? 夜に?」

 弥生が驚いて足を止める。
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