若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あ、ううん。えーと、わたしの稼ぎで足りるだろうから大丈夫」

 思わず口走ると、

「ちょっと、待って!?」

 と弥生が驚いたように私の肩を掴んだ。

「大丈夫だよ?」

「いや、全然大丈夫に聞こえないんだけど」

 んー。なんて言えば伝わるのかな?

「つまり、私ね、彼氏じゃなくてお嫁さんが欲しいんだよ」

「は?」

「私が外で働くから、家庭を守って欲しいって言うかさ。……そういう人がいたら最高」

 そう言うと、弥生は毒気を抜かれたように私の肩から手を下ろした。

「……なるほど。響子らしいっちゃ、響子らしいか。つまり、新しい彼氏は家のことやってくれる人なんだ」

「うん。ご飯作ってくれる」

 そう言うと、弥生は苦笑いをした。

「まあ、響子にはそう言う人がいいのかもね。……脳外、忙しいもんね。今、当直、週何回?」

「二回くらい」

「寝られる?」

「まさか」

 当直なんて名前だけで実際には夜勤だし。ってか、そう思ってなきゃやってらんない。
 気がつくと、もう病院が目の前だった。この先は行き先が分かれる。

「タイムアップか。ねえ、今度、その人に会わせてよ」

「えー」

「言いたいことは分かったけど、ちょっと心配だわ、それ」

「大丈夫」

「かも知れないけど。じゃあ、私も彼氏見つけとくからダブルデート」

「そんな暇ないよ」

「じゃあ、近い内に夕飯食べに行こ! 連絡するね」

 それもちょっと、と答えを返す前に、じゃあねと元気に手を振り弥生は行ってしまった。


   ◇   ◇   ◇

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