若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 疲れた。今日も忙しかった。
 今日の昼ご飯はチョコレート五つ。食べたのは三時半。……おやつじゃない。昼ご飯だ。
 敗因は朝、駅で弥生と会って、うっかりコンビニに寄り忘れたこと。大失敗だ。
 しかも、うっかり忘れてた。今日は日勤だけど十八時から患者さんへの術前説明を入れていた。約束のキャンセルのため牧村さんには仕事の合間に隙を見て電話した。

「若園です。すみません。今日の帰宅、八時過ぎるかもなので約束は無かったことにしてください」

 挨拶もなしに本題を伝えるだけ伝えて切ろうと思ったら、

「終わるのは何時の予定ですか?」

 と聞かれた。

「一応、七時の予定ですが延びるかも。ホントすみません。じゃあ、また」

 結局、説明の後、入院中の患者の様子を見に行って、そこでしばらく話をして、病院を出たのは八時前。
 今日は疲れた。身体もだけど精神的に。
 何度やっても若い人の死はシンドイ。八十過ぎてたらいいのかとか、そういう問題じゃないのは分かってる。四十代、五十代でも若いと思うのに、十代とか二十代とかやり切れない。でも、親御さんの方がよっぽどそう思っているのだ……。
 こういう時、お酒でも飲んですべてを洗い流そうとする人もいるけど、私には無理だ。そもそも、お酒には強くないし、そこに逃げるのは違うと思うし、もしもの呼び出しの時、お酒の匂いをさせている医者とか、自分だったら嫌だから。
 重い足を引きずりながら歩いていると、

「響子さん、お疲れ様」

 正面から思いもかけない声が聞こえて来て耳を疑う。地面に向いていた視線を上げると、二メートルほど前方に牧村さんがいた。

「……なんで?」

「すみません。会いたくて、待ち伏せしちゃいました」

 屈託なく笑う牧村さんにふっと肩の力が抜ける。
< 138 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop