若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 そのまま一緒に牧村さんの車に向かいながら、

「何か食べました?」

 と聞かれた。
 夕飯だろうか昼ご飯だろうか? どちらにしても、食べてない。

「いえ、なにも」

 高橋先生が今日も差し入れにチョコレートをくれたので、一時間ほど前にそれを食べたくらいだ。でも、それはおやつだろう。
 今日も昼を食べそびれたと言うと、高橋先生、「今度からは菓子パンとかにしますね」と言っていた。なるほど、日持ちする菓子パンをいくつか買ってしまっておくのもアリだなと思った。

「もう遅いので、帰りに何か食べて行きませんか?」

 そっか。今から家帰ってご飯作ったら、九時過ぎるよね。
 ……牧村さんのご飯、食べたかったな。そう思う自分に驚いた。
 本当はもうどこにも出かけたくない。というか、出かけるような気分じゃない。このまま直帰して、サクッと寝たい。
 でも、きっと今夕飯食べなきゃ身体がまたどうかなるだろう。今すぐどうかはしないとしても、こんな生活を続けてたら身体を壊す。
 今現在、身体が重くて力が入らないのは疲れだけじゃなく、多分、ろくなものを食べていないからだろうし。心が弱ってしまうのも、もしかしたら、そのせいかも知れない。

「はい。じゃあ」

 自分一人でどこかに食べに行く気にはなれないけど、牧村さんの車に乗って店まで連れて行ってもらって、ご飯を食べるくらいなら。
 ……ムチャクチャ他力本願だな、私。思わず苦笑いする。
 なのに、やっぱり牧村さんは、

「ありがとうございます」

 と優しい笑顔を浮かべた。

「いえ、それは私の台詞です」

 自然とそんな言葉が出てきた。
 重かった心が少し軽くなる。
 もしかして、病院と家の往復だけで、医者、看護師さん、患者さんとその家族としか会話しないような生活も良くないのかな……。
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