若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「それと、すみませんでした。約束ドタキャンしてしまって」

「大丈夫ですよ。お気になさらず」

 微笑を浮かべ、当然のように車のドアを開けてくれる牧村さん。その笑顔に裏があるようには見えない。本気で気にしていないのだろう。それどころか、助手席に座ると、

「一日お疲れ様でした」

 と、いつかもらった栄養ドリンクを渡された。

「多分、またあまり食べてないですよね? 食事前ですがよかったら」

「ありがとうございます」

 シートベルトを締めて、ガラス瓶についたアルミの蓋を開ける。
 まずは一口。……美味しい。
 そのまま思わず一気に半分ほど飲んでしまう。エネルギーが身体に染み渡る。やっぱ、これ美味しいわ。いや、もしかして空腹は最大の調味料?

「何か食べたいものはありますか?」

「いえ、特に」

「じゃあ、良さそうな店を適当に」

 牧村さんはそう言うと車を走らせ始めた。
 病院の駐車場を出ると、車は最寄り駅の方向に曲がった。

「五分くらいで着きます。明日もあるし近場にしますね」

「はい」

 五分と言われたのに、助手席で車に揺られ街のネオンサインを見ていると眠くなってくる。
 ウトウトしながらボーッと流れる景色を見るともなしに見ていた。私がぼんやりしている間、牧村さんは話しかけてこなかった。ただ、信号で止まった時、こちらを見て、目が合うとニコッと笑いかけられた。



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