若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「……こさん、響子さん。着きましたよ」

「……あ」

 たった五分の道中、最後は本格的に居眠りしてしまったらしい。
 呼ばれて、今、どこにいるのか分からなくなって、首を傾げた。ああ、そうだ。牧村さんと夕飯を食べに行くんだった。
 見ると、車は駅の近くのパーキングらしき場所に停まっていた。
 何度か瞬きした後、運転席の牧村さんに目を向ける。

「すみません。寝かせておいてあげたかったんですが、サッと食べて帰ってから寝た方がいいと思って」

「あ、はい。すみません。大丈夫です」

 ふわあっと欠伸をしてから、シートベルトを外す。中途半端に居眠りしたせいで、やけに気だるい。
 ぼんやりしている間に、運転席を下りた牧村さんが回り込んできてドアを開けてくれる。

「居酒屋ですが、ここご飯が美味しいので」

「居酒屋? ……飲まなくても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

 笑顔を返されて、本当かと思いながらも牧村さんの後に続く。
 駐車場のすぐ横、その店はビルの一階にあった。
 暖かなオレンジがかった照明。和風の落ち着いた雰囲気の店だった。
 お店の人は和服を着ているし、通されたのは高級感漂う奥まった個室で、窓の外には小さな坪庭まで付いていた。とても、居酒屋には見えない。とは言っても、飲み屋なんてめったに行かないので、こういう店があると言い切られたらそういうものかと思うしかない。

「響子さん、何がいいですか?」

「……お任せでもいいですか?」

 頭が働かない。……考えるの面倒くさい。

「あ、好き嫌いはないです」

 って、前にも話したっけ?

「了解です。じゃあ、適当に頼みますね」

 牧村さんは面倒くさがる様子もなく、慣れた様子でメニューを見ながら、その場に控えていた店員さんにオーダーをする。
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