若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 大根サラダ、だし巻き卵、揚げ出し豆腐、刺身盛り合わせ、牡蠣フライ。いいね、どれも美味しそう。
 あ、おにぎりとお味噌汁も最初に頼むんだ。

「取りあえず、これでお願いします」

「かしこまりました。お飲み物とお通しをお持ちしますので、少々お待ちください」

 綺麗にお辞儀をして、店員さんは個室のドアを閉めて出て行った。
 ……居酒屋? ホント?

「もし、他にも食べたくなったら言ってくださいね」

 メニューをしまいながら、牧村さんはにこりと笑う。
 何というか、色々慣れてるなぁと思う。職業柄?

「すみません。全部お任せで」

「全然問題ないですよ」

 牧村さんは少しの沈黙の後、ふと思いついたように、

「響子さん、手出してください」

 と自らの手をテーブルの上向きに置いた。

「なんですか?」

 と言いつつ、言われるままに差し出すと、そっと両手で握られた。

「え?」

 慌てて引っ込めようとするけど、握り込まれてほどけない。
 何なんだ、突然。

「寒くないです?」

「はい?」

「手、とても冷たいですよ?」

 ……それで手を握られたの?
 牧村さんの手はとても温かくて、そして大きかった。

「末端冷え性なんです。牧村さんの手、あったかいですね」

「よかったら、カイロ代わりに使ってください」

 ニコリと笑った牧村さんはそのまま何故か私の手のひらのマッサージを始めた。ギュッギュッと親指の付け根や指と指の間を指圧される。
 ……何これ、気持ちいいじゃないか。
 右手が終わったところで、店員さんが戻ってきた。
< 142 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop