若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「三日くらいは大丈夫なので、病院で。柿の葉寿司なんですが」

「柿の葉寿司?」

「はい。今日行ったお店で取り扱ってるので。……苦手じゃないですよね?」

 そう言いながらも、牧村さんは少し不安そうに首を傾げた。

「大丈夫。好きです」

 確か。久しぶりすぎて味は思い出せないけど。でも、何より好き嫌いはないと何度も告げたとおり、ホント何でも食べられる。
 自信のなさそうな牧村さんが意外で、妙に可愛くて思わず頬が緩む。

「いつも、色々とありがとうございます」

 そう言うと、またギュッと抱きしめられた。

「すみません。……つい」

 耳元で牧村さんの声がする。

「響子さん、大好きです」

 甘い言葉にまったく動揺しないどころか、気がつくと、牧村さんの背中に手を回していた。
 ……ああやっぱり私、流されてる。
 だけど、もうそれで良いんじゃないかと思う自分がいた。
 だって、一人は寂しい。……寂しいのだと、気付いてしまったから。
 人のぬくもりがたまらなく恋しかった。

 ダメだ。今日はどうにもセンシティブになっている。
 少し冷静になろう。
 そっと、牧村さんの身体を押して、その腕の中から抜け出す。

「おやすみなさい」

 もう一度、今度こそと思ってそう言うと、牧村さんはとても優しい笑顔を浮かべた。

「おやすみなさい。いい夢を」
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