若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「昼間も夜も働いている。夜勤があって……じゃなくて、当直か。お医者さんなんだよ」

 夜勤だと夜に普通に仕事をする二交代とか三交代の勤務体系。当直は、何かあったら対応するという建前で寝て待てば良いという勤務体系。救急車が来るような総合病院の当直は実質夜勤と変わらない。
 ていうか、労働基準法的に本当はダメだと思う。昼間普通に仕事して、その後、当直とは名ばかりで夜中にも働くとか。もし一般企業でそんなことやったら、大変なことになる。

「え、医者!?」

 秘書はかなり大げさに驚きの声を上げた。

「……あ、もしかして、牧村総合病院の」

「え? まさか。違うよ」

 牧村総合病院は父が院長をしている地域の中核病院。
 だけど、そこの医者と会うのなんてごくたまに体調を崩した時と人間ドックくらいだ。
 ああ、でも、もし響子さんが牧村総合病院にお勤めで健康診断で問診とかしてくれてたりしたら、多分、僕はそこで響子さんと運命の出会いをしていたんだろうな。
 ……無理か。響子さん、外科医だった。

「まあ、仕事はおろそかにしないから。本当に必要だったら入れてもらっていい。ただ、忙しい人だから、できる限り私が合わせたいと思ってる」

「了解です。……本当にベタ惚れなんですね」

「うん、そうだね。だから頼むよ?」

 そう言うと、秘書はまた一瞬固まり、その後、

「……結婚式は、いつ頃の予定でしょうか?」

 と聞いてきた。
 いつ頃? いつ頃だろう?
 さすがに、まだ考えていなかった。けど、そう。
 一ヶ月後には結婚を前提としたお付き合いが開始している予定。そして、絶対に響子さんの生涯のパートナーの座を射止めるつもりだから、結婚は必ずする。
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