若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 そう言う問題じゃない。
 医者だからとか、そういう話じゃない。そんな値踏みをするような行為、響子さんにして良いわけがない。
 仮に響子さんが路上生活者でも夜のお仕事をしていたとしても関係ない。職業とかバックボーンとか、そんなものはどうでも良い。響子さんが何を抱えていても、どんな過去があっても関係ない。
 ありのままの響子さんに惚れたんだ。
 響子さんに黙って、勝手に周辺調査をするとかあり得ない。
 そんなことをして嫌われたらどうするんだ!

「……すみません。社長の愛の深さ、分かりました。全面的に応援するので、その、……空気が重いです!」

 しまった。威圧する気はなかったけど、変なオーラが出てたっぽい。
 ふうーっと息を吐き出す。
 落ち着け。秘書は何も悪気があって言ってたのではない。

「悪かった。そうだな。身上調査はいらない。が、何かあったときのために、君には教えておくよ」

 僕は胸ポケットから名刺入れを出して、大切にしまってあった響子さんの名刺を取り出した。
 秘書が受け取ろうとするのを手で制する。

「写して?」

「あ、触っちゃダメなんですね」

 当たり前だろう。これは僕の宝物だ。
 という僕の心情を察しているかどうか? 秘書は響子さんの名刺に生暖かい視線を送りながら、メモを取った。


   ◇   ◇   ◇

< 149 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop