若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 響子さんから電話があったのは夕方の五時前。
 ちょうど本日最後の会議に向かう途中で電話が鳴った。初めての電話だけど、こんな時間は響子さんも自分も仕事中だ。それだけに、電話の理由は出る前に想像が付いてしまう。

「はい。牧村です」

「若園です。すみません。今日の帰宅、八時過ぎるかもなので約束は無かったことにしてください」

 響子さんは息継ぎもなしに、それだけ言うと、じゃあ、と電話を切ろうとする。
 ちょっと待って!

「終わるのは何時の予定ですか?」

 忙しいところ申し訳ないと思いつつも、これだけは聞かねばと早口で言う。

「一応、七時の予定ですが延びるかも。ホントすみません。じゃあ、また」

 お仕事頑張ってください、と言う間もなく、電話はブチッと切れた。
 忙しそう、……身体大丈夫か? 出会った先週の金曜日の朝を思い出す。疲れ切って体調を崩していた響子さん。
 ここ数日は早く帰れていたけど、それが普通じゃないことは分かっている。入院患者もいれば緊急手術もある。気になる患者がいれば病院に泊まり込むのだって普通だ。父も昔は何日も帰ってこないことがあった。そんな時は母が着替えや弁当を届けていた。

「七時……か。一度帰って出直すか」

 会えるかどうかは分からない。
 それでも会えるかも知れないと思ったら、会える可能性のある行動を取らずにはいられなかった。
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