若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
22.
 十九時過ぎ、僕はN大学病院の駐車場にいた。
 駅に向かう通路が見える場所に車を止める。手には小さな双眼鏡。うん。怪しい人物なのは間違いない。だけど、夜間でも救急診療をしている病院はそれなりに出入りがあるのだ。響子さんを見落とさないように、人が通るたびに双眼鏡を覗く。
 タイムリミットは二十二時。明日も仕事だ。その時間まで待って会えなければ諦めて帰ることに決めていた。
 そして、そのリミットより遥か手前、二十時前、響子さんが病院から出てくるのが見えた。

 響子さんはとても疲れた顔をしていた。唇を引き結んで、うつむき加減で足を引きずるように歩いている。
 慌てて車から下りた。だけど、できる限り慌てた様子を見せないように、ガツガツした様子も見せないように細心の注意を払う。

「響子さん、お疲れ様」

 驚かせないように少し手前から声をかける。

「……なんで?」

 響子さんは僕の声を聞くとゆっくりと顔を上げ、虚を突かれたような顔でぽかんと僕を見た。

「すみません。会いたくて、待ち伏せしちゃいました」

 邪気のない笑顔を見せる。
 疲れ切った響子さんに気付かないかのように、笑顔で接する。
 何があったかは分からない。ただ、職業柄、響子さんは日常的に人の死に接しているはずだ。辛い現実を目にすることも多いだろう。心が折れそうになる日だって、疲れ切ってしまう日だって、きっとあるだろう。
 そして、そんな気持ちを出会ったばかりの僕に見せるのを良しとするかは分からない。
 話してすっきりするのなら、幾らでも聞く。だけど、今はまだ多分違うから。ただ側にいて、できることをしよう。

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