若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「何か食べました?」

「いえ、なにも」

 ……だよね。
 響子さん、食べること好きなのに、食べることにこだわらないよね?
 もう少し自分の身体を大切にして欲しい。だけど、多分、そこに気を使えないくらい、仕事でいっぱいいっぱいなんだろうと思うから、何も言えない。

「もう遅いので、帰りに何か食べて行きませんか?」

 響子さんは少し残念そうな顔をした。
 しまった! やっぱり手料理の方が良かったか!
 だけど、後の祭り。本当なら作ってあげたい。でも、今からだとさすがに遅い。材料買って作ってと言うと、どれだけ急いでも一時間以上はかかってしまう。
 弁当を作ることも考えないでもなかったけど、ここで十九時から待ち伏せするには、家に帰って着替えて車を取ってくるだけで精一杯だった。

「はい。じゃあ」

 だけど、響子さんは頷いてくれた。ほっとする。コンビニ弁当よりは店で食べた方が良い。
 本当に良かった。ごめんね。次はちゃんと何か作るから。

「ありがとうございます」

 謝るのも違うだろうと笑顔でお礼を言うと、響子さんは

「いえ、それは私の台詞です」

 と、恐縮したような表情を浮かべた。

「それと、すみませんでした。約束ドタキャンしてしまって」

「大丈夫ですよ。お気になさらず」

 響子さんを車に案内し、助手席のドアを開ける。当然のように座ってくれるのがたまらなく嬉しかった。

「一日お疲れ様でした」

 そう言いながら、用意しておいた栄養ドリンクを差し出す。

「多分、またあまり食べてないですよね? 食事前ですがよかったら」

 響子さんは反射的に手を出し受け取ってくれた。

「ありがとうございます」
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