若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 道も空いていて、あっという間に目的地に着いてしまった。
 本当はもう少し寝かせておいてあげたいところだけど、それよりもさっさと夕飯を食べて家まで送る方がきっと良い。

「響子さん、響子さん。着きましたよ」

 トントンと肩に手を触れる。
 何度か名前を呼ぶと響子さんはゆっくりと目を開けた。

「……あ」

 響子さんは何度か瞬きした後、僕の方に目を向けた。

「すみません。寝かせておいてあげたかったんですが、サッと食べて帰ってから寝た方がいいと思って」

「あ、はい。すみません。大丈夫です」

 寝起きはいいらしい。響子さんはサクッと目を覚ますとふわあっと欠伸をしながらシートベルトを外す。
 その間に助手席に回り込んでドアを開けた。

「居酒屋ですが、ここご飯が美味しいので」

 駐車場の隣のビルに案内しながら説明をすると、

「居酒屋? ……飲まなくても大丈夫ですか?」

 と驚いたような声。

「大丈夫ですよ」

 と笑顔を返す。
 普通は飲みに行くのが居酒屋なのだろうけど、中にはアルコールが苦手な人もいれば運転手で飲めない人もいる。居酒屋だからといって飲まなくてももちろん大丈夫だ。まあ普通は一緒に行ったグループの誰かは飲むだろうけど。
 ただ、この店は本当に問題ない。学生時代の友人がやっている店なのだ。しかも、オープン当初、頼まれて僕もそれなりの額を出資している。なので、色々と無理が利く。
 今日も奥の個室を押さえてもらっていた。何時に行くか分からないし、行けるかも分からなかったけど、平日だし客も少ないから大丈夫と快諾してもらったのだ。

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