若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 店に入ると、響子さんは驚いたように辺りを見回した。
 ん? なんかおかしなところあったかな? 
 でも長居する気はないし、今日のところはここで我慢してもらうとして、案内されるままに奥の部屋に入る。接待に使うほどではないけど、デートとかちょっとした小グループの会合に使いやすい小ぶりな個室。
 メニューを受け取り開きながら、

「響子さん、何がいいですか?」

 と聞くけど、響子さんは小首を傾げて、

「お任せでもいいですか? ……あ、好き嫌いはないです」

 と言った。
 表情が乏しくて心ここにあらずな様子の響子さん。
 心ここにあらずと言うか、疲れてるんだよね、きっと。

「了解です。じゃあ、適当に頼みますね」

 野菜、ビタミン、ミネラル、タンパク質。
 大根サラダ、だし巻き卵、揚げ出し豆腐、刺身盛り合わせ。ああそうだ。響子さん、牡蠣フライ好きって言ってたっけ、と牡蠣フライも頼んでおく。
 遅い時間だし、響子さんも私も大食いじゃないから、これくらいで十分だろう。 
 そうそう、炭水化物もいるよね。とおにぎりとお味噌汁も頼んでおいた。お酒を飲むわけじゃないのだから、ご飯ものも最初にあると良い。時短になるし。

「取りあえず、これでお願いします」

「かしこまりました。お飲み物とお通しをお持ちしますので、少々お待ちください」

 店員さんが一礼して部屋を出る。

「もし、他にも食べたくなったら言ってくださいね」

 メニューをしまいながら、響子さんに笑いかける。

「すみません。全部お任せで」

「全然問題ないですよ」

 僕はこの店に何度も来ているし、響子さんが好きそうなものを選ばせてもらうのも楽しいのだから。
 何より、響子さんにこんな風に甘えてもらえるのはとても嬉しい。少しずつ心の距離が近づいて来ている気がして。
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