若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 ドアを開けると、響子さんは頬杖をついて窓の向こうの小さな坪庭に目を向けていた。

「響子さん、お待たせしました」

 声をかけると、響子さんは

「あ、じゃあ出ましょうか」

 と隣の椅子に置いた鞄に手を伸ばした。

「そうぞ」

 響子さんの後ろに回って椅子を引くと驚いたように見上げられた。それでも何も言わずに響子さんはスッと立ち上がる。

 更に入り口で用意された伝票にサインをすると、自分が出そうと思っていたらしい響子さんは、

「払うのに」

 と困っていた。

「前にも言いましたが、響子さんの心を射止めるためにやってるんで、安心して餌付けされてください」
 
 耳元でささやくと、響子さんは数秒の間の後、

「ご馳走様でした。美味しかったです」

 と言った。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 萩野が頭を下げ、「ご依頼の品です」と柿の葉寿司の入った紙袋を渡してくれた。
 渡しながら小声で、

「今度紹介しろよ」

 と言われたけど、聞こえないふりをした。
 そう言う話は響子さんがいないところで。そして、響子さんとのお付き合いが確定してからだ。



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