若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 帰りの車でも響子さんは乗って数分で眠ってしまった。
 店から響子さんのアパートまでは近道をすれば二十分足らず。この時間なら大通りで行けば三十分弱。少しでも長く一緒にいたくて遠回りをしたい誘惑に駆られるが、響子さんを早く家に帰すのを優先する。車で寝たって大して疲れは取れない。

「響子さん、響子さん。着きましたよ」

 アパート前の道路に車を止めて、響子さんを起こす。街灯に照らされた響子さんは気持ちよさそうにスヤスヤ眠っていた。
 僕の声に響子さんはとろんとした眠そうな目を開けて、僕を見つけると、

「……おはようございます」

 と寝ぼけた声でそう言った。
 あまりの可愛さに心臓を鷲掴みにされた。そのままキスしたい気持ちを無理矢理押し込めて、

「おはようございます」

 と、笑顔を見せる。キスする代わりに頭をなでさせてもらう。そのまま顔を寄せたくなるのを必死で抑える。

「すみません。寝ちゃいました」

 響子さんは目を数度瞬かせてた。
 ああダメだ、可愛すぎてダメだ。なんで僕たちは一緒に住んでいないんだろう?
 そうだ。響子さんの心を射止めるんだ。すべては響子さんに気に入ってもらって、正式にお付き合いをしてからだ。そのためには無理強い厳禁。強引なのも絶対に禁止。
 渾身の力で無害な笑顔を浮かべる。

「大丈夫ですよ。お疲れなのは分かってますし。帰ったら早く寝てくださいね」

 響子さんがふわあっとあくびをする。思わずフラッと抱きしめそうになり、慌ててシートベルトを外すことで誤魔化した。
 ダメだ。早く車を出よう。
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