若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 それにしても、この柿の葉寿司ホント美味しい。柿の葉に包まれたサバの乗った小さなお寿司。
 一箱十個入りが二箱。一つずつは小さいけど逆に食べやいサイズ。
 ……てか、牧村さん、多過ぎじゃないかな、これ。
 いくらでも入る美味しさだけど、残念ながら私の胃袋はそんなに大きくない。朝ご飯なら、多分三、四個でお腹いっぱいだ。
 ああ、そうか。今日は夜も仕事だから、明日の朝食までの四食分?

「お待たせ。はい、どうぞ」

 三つ目の柿の葉寿司を食べていると、目の前にトンとカップの味噌汁が置かれた。具は豆腐とほうれん草。

「ありがとうございます」

「それ、美味しい?」

「ムチャクチャ美味しいです」

 思わず笑顔を向けると、高橋先生は目を見張った。そして、ニコリと笑う。

「そんなに美味しいなら、一つもらってもいい?」

「え? あ、はいどうぞ」

 名残惜しそうな顔をしていたのだろうか、高橋先生はクスッと笑うと柿の葉寿司に手を伸ばし、

「それじゃ、一つだけ」

 とつまみ上げた。
 そのまま隣の席に座り、自分用に買って来たらしいパンじゃなくて柿の葉寿司を口にする。

「……本当に美味しいな、これ」

「えーと、もう一個食べます?」

 そう差し出したのに、

「響子先生、本当はあげたくないなって思ってるでしょ」

 と笑われた。
 そんな顔をしているつもりはないのだけど。

「どこのだろう?」

「え? どこ?」

 昨日の居酒屋(?)なのか、その前のどこかで買ったのか。
 奈良土産ならそう教えてくれそうなものだし、きっとどこか近くで買ったと思うんだけど。

「今度聞いときます」

「……ところで、これ誰にもらったんですか?」

「え?」

 なんと言えばいいのだろう?
 え、彼氏? まだお試し期間だけど。いや、普通に知り合いにって言えば良いのか?
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