若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 夜間救急外来の診療を手伝って、午前0時を回る頃にようやく仮眠。と思ったら三十分で救急車が来ると起こされて、緊急オペ。気が付いたら夜が明けていた。もう寝る時間でもないしと病棟の患者さんの様子を見て回っていると勤務終了時間になった。
 結局、今日も眠れなかった。まあ、こんなもんだよね。

「先生、お疲れ様で〜す」

「お疲れ様。お先に」

 若い看護師さんの笑顔に見送られて病棟を後にする。
 疲れた。でも、今日はいつもに比べて身体が軽い。きっと、柿の葉寿司のおかげだろう。
 牧村さんにもらった柿の葉寿司は残すところ五つで、残りはちゃんと昨日の昼と夜に食べたのだ。小さくて頑張れば一口で食べられるサイズというのが良かった。午前の外来終了後と救急外来に入る前、それから仮眠前。ゆっくり味わう時間はなかったけど、お腹に何か入れるとやっぱり元気が出る気がする。
 ご飯って大事なんだなぁとしみじみ思う。ふと振り返ると、最近、牧村さんのおかげでホントしっかり食べるようになっている。少し前まで勤務終了後にいつも感じていた全身にはびこる抗いがたいだるさが減っている。多分、ここ最近食生活が改善されているおかげだと思う。

 ああそう言えば、次の約束をしてなかった。
 一昨日は疲れ切っていて、何を話したかもろくに覚えていない。何を食べたかは覚えているところが笑えるけど。牡蠣フライが絶品だったしだし巻き卵もムチャクチャ美味しかった。ああそれから、あの日、手土産に柿の葉寿司をもらったんだ。
 牧村さんを思い浮かべると、何故か食べ物ばかりに結びつく。餌付け……されてるよな、ホント。
< 166 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop