若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「……子さん、響子さん。着きましたよ」

 優しい声で起こされて目を開けると、もう自宅アパートの前だった。

「部屋に入りましょう?」

「……はい」

 頭にもやがかかったみたいで、目がしっかり開かない。気を抜くと、そのまま二度寝しそうなくらいで……。
 半ば抱きかかえられるように車から下ろされて、地面に降り立っても頭は働かない。

「響子さん、可愛いので寝ぼけてても良いんですけど、階段は危ないので気を付けてくださいね?」

 牧村さんに手を引かれて歩き、ぼんやりした頭のままに階段を上る。
 外階段の金属の踏み板が鳴るカーンカーンという音が頭に響く。

「鍵、開けられますか?」

「あ……はい」

 牧村さんが持ってくれていた鞄を差し出してくれた。
 鞄は受け取らないままに外ポケットに手を突っ込み鍵を出す。

「あ」

 力が入らず取り落とした鍵が床に落ちてカシャンと音を立てた。

「開けますね?」

 ぼーっとしている間に牧村さんが拾って、そのままドアを開けてくれた。
 ありがとうございます。と思っているのだけど、言葉にならない。

「んー。……響子さん、少しだけ入りますよ?」

 ドアを大きく開いて私を中に入れ、牧村さんも一緒に入ってきた。

「お邪魔します」

 どうぞ。と心の中だけで答えて、二人一緒に家に入る。
 習慣的に手だけ洗って、後は何もせずにベッドに倒れ込もうとしたところを牧村さんに止められた。

「ちょっと待って」

 そして、牧村さんは上着を脱がせてくれて、布団をめくってくれた後、

「はい、どうぞ」

 と私の背中を押して寝かせてくれ、布団をかけてくれた。
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