若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 そこで、牧村さんは

「しまった!」

 と慌てたような声を上げた。

「響子さん、ごめん。玄関の鍵、閉めなきゃ!」

「……え、なに?」

「本当はここにこのままいたいんだけど、仕事に行かなきゃ」

「……仕事?」

「鍵閉めないと不用心だから。ごめんね、せっかく寝たところ申し訳ないけど、玄関の鍵閉めに来てくれる?」

「……鍵」

 いや、もう無理。
 頭はまだかろうじて少しは動いている。けど、身体は完全に眠っていて、まぶたすら開かない。既に意識が落ちるまで後十秒、みたいにカウントダウン状態。

「うわ、しまったなー」

 ああそうか。先週、家に帰った後、私、布団もかぶらず爆睡して熱出してたんだっけ。
 だから、牧村さん、心配してここまで来てくれたんだ。

「……鍵、持ってって」

「は?」

「閉めてって」

 途切れそうになる意識の中、必死に言葉を紡ぐ。

「え、響子さん?」

「貸して……あげる」

 あ、なんか上から目線だった?
 ダメだ、眠い。もう無理。

「響子さん、えっと、僕が鍵を借りてって、それで鍵閉めて行けば良いってこと?」

 ……鍵はもう一個あるから。
 そう思ったのを最後に、私の意識はぷつりと途切れた。
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