若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「髪、濡れてますね。乾かしましょう」

「半分乾いてるんで、このままで大丈夫ですよ」

 そう答えると、

「ダメです」

 と、またギュッと抱き締められた。
 そのまま耳元で牧村さんの声がする。ここでしゃべられるの、苦手なんだけど! と思うんだけど、牧村さんは私を抱きしめたままに続けた。

「来週は響子さんが熱を出しても助けられません。元気でいてもらわなくちゃ」

 そう言うと、牧村さんは洗面所に足を運び出しっぱなしだったドライヤーを持ってくる。手を引かれてベッド横のラグに座らせられた。

「乾かしますね」

「え、自分で……」

「早めに来たので時間はたっぷりあります」

 ……いや、そう言う問題じゃ。
 でも、牧村さんは有無をいわせずコンセントにプラグを挿してドライヤーのスイッチを入れた。
 あたたかい風が当たり、髪がふわっと顔の横に舞い上がる。牧村さんは髪の毛に指を通しながら器用に風を当ててくれた。
 うわ〜、気持ちいい〜。
 思わず、目を閉じてふう〜っと吐息をもらすと、背中側で牧村さんが笑ったのを気配で感じた。
 髪の毛触られるのって気持ち良いんだよね。
 面倒くさくて滅多に美容院も行かないけど、髪を洗ってもらったり乾かしてもらうのは結構好きだったりする。

 手慣れた様子で牧村さんは頭のてっぺんから髪の先まで順番に乾かして行く。

「……至福」

 思わず呟くと、私が何を言ったか聞こえなかったらしく、

「え? 熱かったですか?」

 と聞かれた。

「気持ちいいです〜」

 少し声を大きくして答えたら、

「それはよかったです」

 と嬉しそうな声が返ってきた。
 髪が乾くと、牧村さんはしばらく私の髪の毛を指ですいたりなでたりした後、

「ご飯、作って来ますね」

 と言って立ち上がる。
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