若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 何となく寂しくて、そのままついていき、台所で材料を取り出す牧村さんの隣から袋を覗き込む。

「今日は何ですか?」

「何が食べたいですか?」

「え、リクエストできるんですか?」

 驚いて聞き返すと、

「もちろんです。材料があるものじゃなきゃ作れないですけど、足りなければ買い出しに行けば良いですし」

「じゃあ、カレーライス」

 思わずそう言うと、

「え、カレーライスですか?」

 と不思議そうに聞き返された。

「ジャガイモと人参がゴロゴロ入ったカレーが食べたいです」

「えーっと、さすがにカレーのルーは持ってきてないので、買いに行ってきますね?」

「あ、そっか」

 カレーなら簡単かなって思ったんだけど、ルーがいるんだった。
 もちろん、我が家にカレールーの買い置きなどあるはずもない。

「じゃあ、違うので良いです」

「大丈夫ですよ。せっかく響子さんがリクエストしてくれたんだから、作りますよ?」

「でも」

「一緒に買出しいに行きましょうか?」

 牧村さんはにっこり笑って、私の顔を覗き込む。
 そして、そのまま、頬にキスをされた。

「ちょっ……牧村さん!」

「すみません。だって、響子さんがあんまり可愛いから、つい」

「もう」

 そうは言いながらも、実はまったく嫌ではなくて、そんな自分に戸惑いを感じた。
 だけど、深く考える間もなく、

「遅くなるので、行きましょう」

 と手を引かれ、そのまま材料を買いに出ることになった。


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