若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 それから、たった一時間半。
 私の目の前には湯気を立てキラキラ輝くカレーライスが置かれていた。

「お待たせしました」

 リクエスト通りにジャガイモと人参がゴロゴロ入っていて、ついでにキノコと鶏肉も見え隠れする。
 見た目だけじゃなく、匂いも完璧なザ・カレーライス。ホテルのカレーみたいにお上品じゃないところが良い。

「いただきます!」

「召し上がれ」

 向かいに座る牧村さんの背中に後光が差している気がした。
 つやつや光るご飯とカレーを少し混ぜて、まずは一口。
 んー。最高。
 思わず目を閉じ頬を押さえて味わってしまう。

「美味しいです!」

「それは良かった」

 そう言って、牧村さんも「いただだきます」とカレーライスに手を付けた。

 牧村さんは煮込み時間を減らすために、電子レンジでジャガイモと人参を柔らかくしていた。
 調理時間が一時間に満たないのに、スプーンを入れるとジャガイモはほっこりと二つに割れた。すごいな。

 今日は牧村さんが料理する横でずっと見ていた。
 牧村さんは「休憩していて大丈夫ですよ?」と言ってくれたけど、しっかり寝た後だったしお風呂も入ってすっきりしていたし。
 いつも、あまりに手際よく作ってくれるので、なんだか気になって。ただ見ているだけで、ほとんど手伝っていないけど。うん。でも食器を出すくらいはした。……幼稚園児のお手伝いレベル?

「カレーって煮込まないといけないと思ってました」

 添えられたサラダに箸を伸ばしつつ、そう聞くと牧村さんはニコリと笑って教えてくれた。

「実は、響子さんとお付き合いすることになってから、時短料理を少し勉強したんです」

「時短料理?」

「はい。調理時間が短ければ、早く食べられるでしょう? 早速役に立ちました」

 ちょっと得意げな牧村さん。いつもと同じはずなのに笑顔がなんだか可愛く見えた。
< 176 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop