若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「ありがとうございます」

 真顔でお礼を言うと、牧村さんはクスッと笑った。

「また作りますね」

「楽しみにしてます!」

 と答えてから、でもそうだ、来週は牧村さんいないって言ってたっけと思い出す。
 まあでも、一週間なんてきっとあっという間だ。いつもみたいに仕事に忙殺されていたら、いつの間にか終わっているはず。
 だから大丈夫、と思ったところで、まったく大丈夫じゃないから、わざわざ自分に言い訳するようなことをしているのだと気がついた。

「響子さん? 大丈夫ですか?」

 気がつくとスプーンを持つ手が止まっていたようで、牧村さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「……すみません。えっと……大丈夫です」

 何か言おうと思ったけど、何を言っていいのか分からず、結局、言葉を濁してもう一度カレーライスに意識を戻す。

「うん。やっぱり美味しい」

 そう言って、久しぶりの家庭の味のカレーライスをしっかりと味わう。
 もちろん、懐かしい母の味とは少し違う。でも、一緒に買い物に行って、一緒に中に入れるものを決めたから面影はある。野菜がゴロゴロいっぱい入っていて、お肉は鶏肉の時が多くて、トマトやすりおろしたリンゴも入っていて。
 働いていた母はよく「野菜たっぷりのカレーライスは忙しい主婦の強い味方ね」なんて言っていた。一回作ると2~3日は楽しめる。

 寂しいな。一週間か。
 仕事に忙殺されていたら本当にあっという間だと思う。だけど、きっと私は何度も牧村さんのことを思い出すのだろう。牧村さんのご飯食べたいな、とか。
 ……うん。完全に餌付けされてる。
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