若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 でも、多分、それだけじゃない。
 一人の時なら切なくなる懐かしい想い出も、牧村さんの料理を食べながらだとほっこりと温かく幸せな気持ちになれるんだ。ご飯だけじゃなくて、きっと、それは牧村さんの人柄のおかげもあって……。

 気がついたら、最後の一口になっていた。
 しまった。もっと味わって食べれば良かった。
 名残惜しくスプーンを見つめていると、牧村さんは優しく言った。

「また、いつでも作りますよ?」

 その言葉に、思わず心の中で、来週は作れないくせに、と思う。
 そんな自分に驚いて、気がつくとマジマジと牧村さんを見つめてしまった。

「えーっと、すみません。来週は来られないんですけど」

 うわっ。バレバレだった!?
 驚いて、そのまま顔がカッと熱くなるのを感じた。
 赤面を隠すかのように、慌てて最後の一口を口に放り込んだ。

「響子さん」

 一足先に食べ終わっていた牧村さんがすっと立ち上がると私の横にやって来た。

「大好きです。……愛してます」

 そう言って、私の隣にひざまずくと牧村さんは私をそっと抱きしめた。
 私は牧村さん脳での中で、赤くなりながら最後のカレーライスをゴクリと飲み込んだ。


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