若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 夜九時半。
 食後、一緒に後片付けをして、それからニュースを見たり他愛のないおしゃべりをしたりしていると、あっという間に牧村さんの帰る時間になってしまった。

「響子さん、明日は……」

「六時過ぎには出られると思います。土曜日だし」

「お迎え行きますね?」

 当然のように笑顔で告げられる言葉に小さく頷いた。
 そして付け足す。

「もし遅くなるようなら電話しますね」

 何もないといいなと思うけど、自分ではまったくコントロールできないから。

「はい」

「……えーっと、忘れるかもですが」

 そう言えば、元彼との約束を急患だかなんだかで何度もすっぽかしたのを思い出して付け加えると、牧村さんはにっこり笑った。

「気にしなくて大丈夫ですよ。一、二時間くらいなら待ちますし、それ以上なら何かあったかなと思って帰りますので」

「い、一、二時間って……そんなに待たないで下さい」

 それはさすがに待ちすぎでしょう!?

「あ、すみません。……重いですか? いやでも、少しでも顔が見られるなら見たいし、えーっと、あんまり待たないようにしますが、うっかり待ってたら許して下さいね?」

 いつも落ち着いてる牧村さんが慌てている姿がやけに可愛い。

「牧村さんが嫌じゃないなら、別にいいですけど……」

 それに、本当に何度もすっぽかされたら、牧村さんだって待たなくなるんじゃないかな。
 ……と言うか、もしかして、何度もすれ違っている内に牧村さんの気持ちだって冷めてしまうかも知れないし。
 そうだよね。きっと、こんな風に想ってくれるのは今だけだよね。
< 179 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop