若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「響子さん?」

「いつも、ありがとうございます」

 一ヶ月か。
 お試し期間の一ヶ月。まだ最初の一週間。
 来週は会えないとしても、その後の二週間で、牧村さんが私に嫌気がさしてしまうかも知れない。

「え、響子さん?」

 気持ちを引き締めよう。
 一人で生きていくって心に決めていたのに。なんで、今、こんなに牧村さんに依存しかかっているのだろう?

「ごめんなさい」

 思わず謝るけど、牧村さんは何のことか分からないという顔で、私の両肩に手を置く。それから、大きな身体をかがめて私の顔を覗き込んだ。

「すみません。……えっと、そんなに重かったですか? 響子さんが嫌なら待たないようにしますし、気に入らないところは言ってもらえたら直すように努力するので」

 何で牧村さんが慌てるんだろう?
 私、やってもらってばっかりなのに。おかしいでしょ。
 そう、牧村さんが悪いとしたら……

「ご飯が美味しすぎるんですよ!」

「え?」

「……ご飯が美味しすぎて、餌付けされちゃって。こんなのが続いたら、私、牧村さんから離れられなくなっちゃうじゃないですか」

 そこまで言ってから我に返った。
 え、私、何言った、今。

「響子さん!」

「わあっ、ごめんなさい!」

 逆ギレもいいところだ。美味しい手料理食べさせてもらって、職場まで迎えに来てもらって、何文句言ってるの、私!?
 あきれられてもおかしくない、しまった、と思ったのに、気がついたら牧村さんの腕の中にいた。

「ありがとうございます!」

「……はい?」
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