若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「離れなくて良いんですよ? も、今すぐ結婚しましょうか? お互い大人ですし、今から役所に行って婚姻届出しましょうか?」

「牧村さん!?」

「えーっと、新居はすぐに用意するとして、取りあえず今日、ここに泊まっても良いですか?」

 耳元でささやかれて、言われた言葉の意味を理解すると同時に身体がビクッと跳ね上がる。

「ダメですっ! 何言ってるんですか!」

 突然の話に一気に冷静になって、牧村さんの胸板を押し返す。

「響子さん。……でも、僕も離れたくないんです」

 切なげな瞳にじっと見つめられて、思わず言葉を失う。
 牧村さんの手が私の頬に添えられ、顔がすっと近づいてきた。唇に数度軽くキスを落とされたと思うと、牧村さんの動きがピタリと止まり、数秒後ゆっくりと離れていった。
 それから、牧村さんはフーッと大きく息を吐いた。

「すみません。理性がすり切れそうなので、今日は帰りますね」

「え?」

「それじゃあ、明日の六時に。……おやすみなさい」

「あ、はい。おやすみなさい」

 牧村さんは私の後頭部に手を置くと私を抱き寄せ、

「ゆっくり休んで下さいね」

 とささやいた。

「あの……牧村さんも気を付けて帰ってくださいね」

「ありがとう」

 牧村さんは身体を離し際、私の頬に軽くキスを落とすと我が家を後にした。
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