若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あのですね、社長、一人で考えるより、やっぱりお相手の意見を聞かれた方が良いのではないでしょうか?」

 首を傾げつつこれからの動きに頭を悩ませていると、秘書が笑いながら正論を吐いた。

「あー、そうだね。そうしよっかな」

 けど、響子さん、式とか披露宴とか興味あるんだろうか?
 いや、もしかしたら、こんな風にしたいとかいう希望があるかも? ……うーん。むしろ、面倒だから何もしたくないと言われそうな気がする。

「何を悩んでるか分かりませんが、その答えも多分社長の中にはないですよ」

「……そりゃそうだ」

 秘書の言葉にふっと肩の力が抜けて、思わず笑うと秘書もクスクス笑った。

「社長でも、そんな風に悩まれるんですね」

「そりゃ悩むでしょう」

「仕事では悩むことも迷うこともなさそうですが」

「そりゃ仕事はね」

 悩みも迷いもしない訳じゃないけど、仕事なら解答を出すプロセスってものがあるから、段取り良く進めていれば端から見ればスイスイ進めているように見えるだろう。実際には、そのプロセスの途中でそれなりに考えてはいる。
 思えば、過去何度か付き合った女性たちが相手の時は、こんな風には悩まなかったなと思い起こす。ダメになるならダメになったで良い、それなりに関係が築けていれば十分だった過去の相手とは根本的に違う。響子さんは僕の特別だから。
 そう。響子さんの意見は最大限尊重したい。だけど、申し訳ないけど、もうこの手は離してあげられない。絶対に離せないから、せめて、響子さんが僕と一生一緒にいても良いなと思ってくれるように頑張らなくては。

 物思いにふけっていると、社長室の電話が鳴り、ワンコールで秘書が取った。

「はい。社長室北尾です。……はい。了解しました。すぐに向かって頂きます。失礼します」

 電話を切ると秘書は私の方に向き直った。

「社長、R社の社長が受付を通られました。第一応接室にお願いします」

「ありがとう」

 そのまま席を立って足早にドアに向かうと

「行ってらっしゃいませ」

 と秘書がドアを開けてくれた。
 

   ◇   ◇   ◇

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